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東京地方裁判所 昭和61年(合わ)163号 判決

主文

被告人両名をそれぞれ懲役六年に処する。

被告人両名に対し、未決拘留日数中各二〇〇日を、それぞれその刑に算入する。

被告人圷隆一から、押収してある木刀一本(昭和六一年押第九六八号の1)を没収する。

訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人圷隆一は、本籍地の中学校を卒業後、上京して肉問屋の店員として働くうち、暴力団関係者と付き合い、昭和四一年ころ日本国粋会金町一家西戸組の構成員となり、本件当時同会常任幹部であつたもの、被告人岩崎康義は、静岡県内の中学校を卒業後、同県内で時計店店員、クラブ従業員等として働き、昭和五四年ころ埼玉県内で飲食店を経営していた際、客の被告人圷隆一と知り合い、昭和六〇年一〇月ころから埼玉県八潮市大字木曽根一、五八七番地三所在の被告人圷隆方に出入りし、同被告人の舎弟分の立場で債権取立て、ノミ行為等の手伝いをするに至つたものであるが、被告人両名は、昭和六一年一月二三日午後一一時三〇分ころ、志村正雄から誘われて東京都足立区六木四丁目三番八号所在のスナツク「ラ・セーヌ」に赴き、同店内で同人及び同人の友人花田勝美(昭和一四年六月四日生)と一緒に飲酒していたところ、花田勝美が酒癖悪く、ホステスに悪戯をし、被告人らにぞんざいな口をきくので、再三たしなめるうち、同人が逆に反抗的な態度を示したことなどから、被告人らの面子が潰されたものと思い込んで憤慨し、同人を前記被告人圷隆一方に連行した上で謝らせるべく、翌二四日午前二時三〇分ころ、同人及び志村正雄を被告人岩崎康義運転の普通乗用自動車に乗せて右「ラ・セーヌ」から前記被告人圷隆一方に至り

第一  前同日午前三時ころから、前記被告人圷隆一方一階八畳間において、被告人両名は、花田勝美に対し、前記「ラ・セーヌ」における同人の反抗的な態度などを難詰し、謝ることを強く促したが、同人が頑としてこれに応じないで反抗的な態度をとり続けたことに激昂し、同人の身体に対し暴行を加える意思を相通じた上、同日午前三時三〇分ころから午前四時三〇分ころまでの間、同所において、同人の顔面を手拳で殴打し、また、竹刀で同人の背部、顔面等を滅多打ちにし、更に、木刀(昭和六一年押第九六八号の1)で同人の頭部、左頸部、背部等を多数回殴打し、その左頬

部付近を強く突くなどの暴行を加え、よつて、同人をそのころから同日午後一時ころまでの間に、前記被告人圷隆一方において、甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により窒息死させた

第二  被告人両名は、第一の犯行を隠蔽するため、志村正雄と共謀の上、前同日午後五時三〇分ころ、花田勝美の右死体を被告人岩崎康義運転の普通乗用自動車のトランク内に隠して前記被告人圷隆一方を出発し、午後九時三〇分ころ、茨城県久慈郡大子町大字上野宮字橋場一、八六一番地三の採草地まで運び、午後一一時ころ、同所に穴を掘つて右死体を土中に埋め、もつて右死体を遺棄した

ものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の適用)

被告人両名の判示第一の所為は刑法六〇条、二〇五条一項に、判示第二の所為は同法六〇条、一九〇条にそれぞれ該当するところ、右は同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の罪の刑に同法四七条但書の制限内で法定の加重をした各刑期の範囲内で、被告人両名をそれぞれ懲役六年に処し、同法二一条を適用して被告人両名に対し、未決拘留日数中各二〇〇日を、それぞれその刑に算入し、押収してある木刀一本(昭和六一年押第九六八号の1)は判示第一の犯行の用に供した物で、犯人以外の者に属しないから同法一九条一項二号、二項本文を適用して被告人圷隆一からこれを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文、一八二条を適用して被告人両名に連帯して負担させることとする。

(量刑の理由)

本件は、判示認定のとおり、被告人両名が同席して飲酒した際の被害者の態度が反抗的であつたことなどから憤慨し、同人を被告人圷隆一方まで連行して謝らせようとしたが、同人がこれに応じなかつたため、共謀して同人の身体に対し手拳、竹刀、木刀等で激烈な暴行を加えた結果、同人を甲状軟骨左上角骨折に基づく頸部圧迫等により死亡するに至らしめ、更に、犯行を隠蔽する目的でその死体を山中に運び、穴を掘つて土中に埋めた傷害致死及び死体遺棄の事案であるところ、その動機についてみるに、同席して飲酒中の被害者の言動等から被告人らの面子が潰されたものと思い込み、このような些細なことに立腹して、同人を被告人圷隆一方に連行して謝らせようとしたが、同人が頑としてこれに応じないで反抗的な態度をとり続けたことに激昂し、いわゆる焼を入れるべく、共謀して、判示認定の暴行に及んだものであつて、被告人両名いずれも自己中心的で激情の赴くまま短絡的に犯行を企図したことは強く非難されなければならないこと、また、その犯行態様についてみるに、被害者の顔面を手拳で殴打し、次いで竹刀で同人の背部、顔面等を滅多打ちにし、更に木刀でその頭部、左頸部、背部等の身体枢要部を多数回殴打するなど、二人がかりで約一時間に亘り、殆ど無抵抗の被害者に対し一方的に執拗、かつ、激烈な暴行を加え、同人の身体に多数の創傷を負わせたまま、治療等を施すことなく放置した結果、貴重な人命を奪うに至つたものであつて、残虐、非情にして極めて悪質な事案であること、更に、犯行を隠蔽するため死体を山中に運んで土中に埋めたものであつて、非道極まりない所業であること、加えて、本件犯行後証拠品を処分して罪証隠滅工作を行うなど、事後の行状においても悪質であること、したがつて、本件犯行により被害者の蒙つた長時間に亘る肉体的苦痛、その結果一命を絶たれた上、山中の穴に埋められるに至つた被害者の無念さ、そして、その死体が発見されるまでの約半年間に亘り安否を気遣つた挙句、変わりはてた被害者の姿に接した遺族の心情などには察するに余りあるものがあること、なお、被告人圷隆一においては、前科二犯を有し、またもや本件のような重大犯罪を敢行したものであつて、長期間に亘り暴力団構成員となつていたことも含め、その規範意識の欠如には顕著なものがあると言わなければならないこと、被告人岩崎康義においては、被告人圷隆一の舎弟分として正業に就かず、無軌道な生活を継続していたことが本件の背景となつており、本件を契機として被告人圷隆一との関係を断とうとはしているものの、同被告人に責任を転嫁する言動が見受けられるなど、真摯に反省する態度を十分示すには至つていないこと、なお、被告人岩崎康義の弁護人において、同被告人が犯行現場から立ち去り共犯関係が解消された後、被告人圷隆一が単独で被害者に致命傷の暴行を加えた旨主張するが、関係証拠に徴して、被告人岩崎康義が犯行現場から立ち去つた後に、被告人圷隆一において被害者に致命傷となる暴行を加えた事実を認めることができず、また、被告人岩崎康義が前記の共犯関係から離脱したことを認めることができないことも明らかであつて、同被告人においても傷害致死の共同正犯としての責任を認めざるを得ないこと、などの諸事情に鑑みると、被告人両名の刑事責任は重大であると言わざるを得ず、他方において、本件の発端となつた被害者の言動等にも酔余配慮を欠く点がなかつたわけではないこと、被告人圷隆一において、公訴事実自体につき捜査段階からこれを一貫して認めており、被害者の遺族に対し、弁償金の一部として一五〇万円を支払済であること、被告人岩崎康義において、前科・前歴が全くなく、被害者の遺族に対し見舞金一〇万円を交付していること、などの被告人両名にそれぞれ有利に酌むべき事情も存するが、これらを併せ斟酌するとしても、被告人両名を主文掲記の各刑に処するのはやむを得ないと思料する。

よつて、主文のとおり判決する。

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